昔のナンパAVには「本当にナンパする」作品があった
1990年代から2000年代初頭、AVには「街で普通の女性に声をかけ、そのまま出演交渉する」こと自体を売りにしたジャンルが存在した。
もちろん、当時からすべてが本物だったわけではない。出演者をあらかじめ用意して、街で偶然出会ったように見せる、いわゆる「仕込み」もあった。しかし一方で、本当に繁華街へ出て女性へ声をかけ、交渉を重ねて撮影へ進む制作も行われていた。
後年、ある大手メーカーの創業者も、当時のナンパ作品について「仕込みが分かってしまう」と感じ、むしろ本当にナンパしたほうが演出する必要がないと考えた、とインタビューで振り返っている。初期作品ではスタッフが仕込みの女性を使ったため、撮り直させたという逸話まで残っている。

「ナンパ帝国」「ザ・ナンパスペシャル」が人気になった時代
1990年代には「ナンパ帝国」などのシリーズが登場し、その後「ザ・ナンパスペシャル」に代表されるナンパ物が人気ジャンルへ成長していった。
この時代の面白さは、単に出演女性を見るだけではなく、「この女性は本当に一般人なのか」「本当に今、声をかけたのか」というドキュメンタリー的な部分そのものが商品になっていたことである。
成功する女性だけを映すのではなく、断られる場面や街中での会話まで作品に残すことで、「これは本当に街で起きている」というリアリティを強調した。
考えてみれば、現在のYouTubeの突撃企画や街頭インタビューにも近い。何が起こるか分からないこと自体がコンテンツだったのである。

ただし「ガチ」であるほど危険も大きかった
ところが、本当に一般女性を街で探す方式には大きな弱点がある。
プロダクションに所属する出演者なら、事前にプロフィールや本人確認を行いやすい。しかし、たった今街で知り合った人物について、制作側が得られる情報は圧倒的に少ない。
年齢は本当に正しいのか。本人確認は十分なのか。出演内容を理解しているのか。後になって気持ちが変わらないか。
「偶然出会った素人」というリアリティを強く求めれば求めるほど、制作側には確認しなければならない事項が増えていく。ガチナンパ物の魅力とリスクは、実は表裏一体だった。
2004年、未成年者出演をめぐる事件が起きる
その危険性が現実になった代表的な出来事のひとつが、2004年に報じられた未成年者出演事件である。
ナンパ系作品などで知られていた複数の男性出演者や制作関係者が、当時16歳の高校生が出演した作品をめぐって逮捕された。
ここで重要なのは、「本人が成人だと言ったから信用した」で済ませられる世界ではないということである。
作品を販売する以上、出演者が誰なのか、何歳なのかを制作側が確認する必要がある。街で偶然声をかけた女性をその日の勢いで撮影するという方法は、制作会社にとって非常に大きなリスクを抱えることになった。

「この事件で法律が変わった」は半分違う
この時代について、「この未成年出演事件をきっかけに法律が厳しくなった」と語られることがある。
しかし時系列を確認すると、少し違う。
2004年には児童買春・児童ポルノ禁止法が改正されているが、改正法が国会で成立したのは6月11日。一方、前述の事件で逮捕が報じられたのは6月23日である。
つまり、少なくとも「この事件が発生したので、急いで法律を改正した」という順番ではない。
当時すでに国際的にも児童の性的搾取に対する規制強化が進んでおり、日本でもその流れを受けて法改正の議論が進められていた。
むしろこの事件は、「世の中も法律も、昔のような曖昧な制作方法を許さなくなり始めた時期」に発生した象徴的な事件と見るほうが自然だろう。
そして業界そのものがコンプライアンス重視へ変わった
2000年代以降、AVはレンタルビデオ中心の世界から、DVD、セル販売、インターネット配信へ移っていった。
一度発売された映像が中古市場だけに残る時代ではない。ネットに出ればコピーされ、長期間残り続ける可能性がある。
そこで出演契約、本人確認、年齢確認、撮影内容の確認などが以前より重要になっていった。
皮肉なことに、AVが一つの産業として大きくなるほど、「その場の勢いで撮る」という昔ながらのガチナンパ方式はやりにくくなったのである。
決定打となった2022年のAV出演被害防止・救済法
そして2022年6月、「AV出演被害防止・救済法」、いわゆるAV新法が成立・施行された。
この法律では出演契約について書面を交付し、その内容を説明することが求められる。
さらに大きいのが時間の規制である。
契約書などが交付されてから1か月間は撮影できない。
そしてすべての撮影が終了してから4か月間は作品を公表できない。
出演者には一定期間、無条件で契約を解除できる仕組みも設けられている。
この時点で、昔のナンパ作品で描かれていた「今日街で声をかけた女性を、そのまま今日撮影する」という制作方法は、現在の適法な商業AVでは成立しない。

AV新法だけが原因ではない
ただし、「AV新法がガチナンパAVを消した」と考えるのも少し単純すぎる。
実際にはその前から、本人確認、未成年者出演への警戒、出演契約、肖像や映像がネットに残り続ける問題、出演被害をめぐる社会問題など、複数の要因が積み重なっていた。
2022年の法律は、それまで徐々に狭くなっていた「その場でナンパして、その場で出演」という制作方法に、制度上の決定打を与えたと考えるほうが近い。
だから現在でも「ナンパ」「素人」「街頭」といった設定のAVは作れる。ただし、それは映像上の設定と、実際の出演契約・撮影手続きを分けて考える必要がある。
観測結果――ガチナンパAVが消えた本当の理由
昔のガチナンパAVが成立していたのは、AV業界そのものが現在よりはるかに小さく、契約や本人確認についても現在ほど制度化されていなかった時代だったからだろう。
そこへ未成年者出演事件などが起こり、出演者保護への意識が高まり、インターネットによって映像が半永久的に残る時代になった。そして最後にAV新法によって、契約から撮影まで最低1か月という明確な時間が設けられた。
「さっき駅前で出会った女性が、このあと作品に出るかもしれない」――あの独特の危ういリアリティは、法律だけではなく時代そのものと一緒に消えていった。
現在「ガチナンパ」を名乗る作品が存在したとしても、1990年代のそれとは意味が違う。
昔のナンパAVは、AVというジャンルがまだ現在ほど管理された産業になる前だからこそ成立した、ある意味では二度と同じ形では作れない時代の記録なのかもしれない。
最後にひとつ
ガチナンパAVって、エロだけじゃなく「どう話しかけて、どう警戒心を解くか」を見る教材みたいなところもあったんだよね。特に“ケンケン”の話術は、押しの強さより会話の運び方が上手くて、ナンパの勉強になった記憶がある。