AVの本番はなぜ売春にならない?売春防止法との違いと法律上の境界線

AVを見ていて、素朴な疑問が浮かぶことがある。

出演者は仕事として報酬を受け取っている。そして作品によっては、男女が実際に性交している。

それなら「お金をもらって性交しているのだから、売春になるのでは?」と思うのは自然だろう。

ところが、日本では本番を含むAVが長年制作されている。一体どこに法律上の境界線があるのだろうか。

売春防止法は「お金+性交」だけでは成立しない

まず確認しておきたいのが、売春防止法における「売春」の定義だ。

売春防止法第2条では、売春を「対償を受け、又は受ける約束で、不特定の相手方と性交すること」と定義している。

ここで重要なのが、「対償」と「性交」だけではないことだ。

「不特定の相手方」という条件まで揃って、法律上の売春になる。

たとえば恋人同士の性交は当然ながら売春ではない。特定の男女間で金銭的な援助が存在したとしても、それだけで直ちに売春防止法上の売春になるわけでもない。

問題は、その性交が「金を払う人なら誰でも相手になり得る」という性質を持っているのかという点にある。

「不特定」とは、相手の名前を知らないという意味ではない

ここは少しややこしい。

売春防止法でいう「不特定」は、「性交する瞬間まで相手が誰なのか分からない」という意味ではない。

法律制定時の国会審議でも、対償を得ることを中心として、不特定の範囲から相手を選ばず性交するような場合が想定されている。

つまり、待ち合わせをして名前も顔も知った後で性交したからといって、それだけで「特定の相手」へ変わるわけではない。

逆に、AVでは通常、作品ごとに出演者が決められ、撮影日、内容、共演者などが制作側によって設定される。

この「作品制作のために決められた相手」という構造が、一般的な売春とは違って見える大きな部分である。

では「出演料だからセーフ」なのか?

ここでありがちな説明がある。

「女優が受け取っているのはセックス代ではなく出演料だから売春ではない」というものだ。

しかし、これはそこまで単純ではない。

名目を「出演料」にすれば何でも合法になるのであれば、売春を撮影して「これは映像作品です」と言えば済んでしまう。

当然ながら法律は、そんな単純な看板だけで判断するわけではない。

実際、2023年には国会でまさにこの問題が質問されている。

「性行為映像制作物に出演し、その出演行為の一環として特定の相手と性交し、出演料を受領する行為は売春なのか」という質問に対して、政府は個別具体的な事案に応じて判断され、一概には答えられないという趣旨の回答をしている。

つまり政府も、「AVだから売春ではない」という一律の免罪符を認めているわけではない。

逆にいえば、AVでも売春と判断される可能性はある

ここが、この話の一番興味深いところだ。

撮影という形式を取っていても、実態として「報酬さえもらえば不特定の相手と性交する」という状態になっていれば、売春防止法との関係が問題になる余地はある。

たとえば撮影作品ごとに男性が次々と入れ替わり、出演者本人にとって相手がほとんど問題にされず、性交そのものへの対価という性質が強くなればどうなのか。

このあたりは「カメラが回っているから大丈夫」と機械的に線を引けるものではない。

形式ではなく実態が問題になる。

AV新法も「本番を合法化した法律」ではない

2022年に施行された、いわゆるAV出演被害防止・救済法も誤解されやすい。

この法律では、AVの対象となる「性行為」に性交や性交類似行為が含まれている。

そのため、「国がAVでの本番を正式に認めた」と受け取る人もいるかもしれない。

しかし、法律では同時に、刑法や売春防止法など他の法律で禁止・制限されている行為を、AVだから可能にするものではないことも明確にされている。

さらに、出演契約は作品ごとに締結する必要があり、契約書や説明書面を受け取ってから1か月間は撮影できない。撮影時には出演者が嫌な行為を拒否でき、撮影終了から公表までにも原則4か月の期間が設けられている。

つまりAV新法は、「性交してよい法律」ではなく、AV制作における出演者保護のルールを定めた法律と考えた方が分かりやすい。

ではモザイクは何のためなのか

もう一つ混同されやすいのがモザイクだ。

「本番が違法だから、挿入部分をモザイクで隠している」と考えたくなるが、これは別問題である。

モザイク処理は主として、性器を露骨に描写した映像の公開・頒布と刑法上のわいせつ物規制との関係から行われてきたものだ。

つまり、性交をしているかどうかの問題と、それを映像としてどこまで見せられるかという問題は別なのである。

本番か疑似かという問題、売春防止法の問題、映像表現としてのわいせつ規制。この三つをごちゃ混ぜにすると、AVをめぐる法律は非常に分かりにくくなる。

そもそも売春防止法も少し特殊な法律である

さらに話を複雑にしているのが、売春防止法そのものだ。

同法第3条は売春をすること、そしてその相手方となることを禁止している。

一方で刑事罰の中心となっているのは、勧誘、周旋、困惑や暴行によって売春させる行為、売春をさせる契約、場所の提供など、売春を助長・組織化する行為である。

そのため「売春=その場で性交した二人が直ちに逮捕される」というほど単純な構造でもない。

AVとの境界が分かりにくく感じる背景には、こうした売春防止法独特の作りもある。

観測結果――「AVだからOK」という法律は存在しない

結局のところ、AVの本番が普通に存在する理由を「撮影だから合法」「出演料だから合法」「モザイクだから証拠にならない」のどれか一つで説明することはできない。

売春防止法が問題にするのは、金銭を受け取ったかだけではなく、不特定の相手方との性交なのか、その金銭がどのような性質を持つのか、実際にどのような仕組みで性交が行われていたのかという部分だからだ。

一般的な商業AVなら、制作会社が企画を立て、出演者を選び、作品ごとの契約を結び、撮影して映像商品として販売する。

この構造は、客が料金を払って性交の相手になる一般的な売春とは確かに違う。

しかし、その形式を利用すれば何をしても売春防止法を回避できるわけではない。

カメラを置けば売春がAVに変わる――そんな単純な話ではない。

むしろ現在の法律は、「AV」という業種だけで白黒を決めず、その撮影の実態を見て判断する仕組みになっている。

だからこの問題、調べれば調べるほど「本番は合法か違法か」という二択では答えられない。AVと売春の境界線は、一般に思われている以上に細いところに引かれているのである。

※本稿は2026年8月時点の法制度をもとにした一般的な解説であり、個別案件についての法律判断を行うものではありません。

余談

ネットを開けば海外の無修正動画がいくらでも見られる時代に、日本だけ昔ながらの規制を続けて、どこまで意味があるのだろう。全面解禁は別として、現実に合わせた線引きは必要な気がする。国はこのまま触れずに行くのだろうか。

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