自分の彼女や妻が、別の男性と親密になる。
普通に考えれば、面白くない。嫉妬するし、腹も立つ。場合によっては、その時点で関係が終わっても不思議ではない。
ところが性的ファンタジーの世界には、まったく逆の反応をする男性がいる。
「自分のパートナーが他の男に求められる状況を想像すると興奮する」という、いわゆる寝取られ、カッコルド、ホットワイフ系の嗜好である。
なぜ、現実なら嫌なはずの出来事が、妄想の中では刺激になるのだろうか。

嫉妬は「不快な感情」だけではない
まず注目したいのが、嫉妬そのものだ。
恋人を失うかもしれない。妻が自分以外の男を魅力的に感じるかもしれない。自分より強そうな男、若い男、モテそうな男が現れるかもしれない。
こうした状況は、安心とは正反対にある。
しかし人間の性的興奮は、必ずしも安心した状況だけで強くなるわけではない。緊張、不安、羞恥、恐怖など、本来なら避けたい感情が性的な刺激と結びつくこともある。
ジェットコースターやホラー映画を怖がりながら楽しむのと少し似ている。
「本当に奪われるのは嫌だ。しかし奪われそうになる想像は刺激的」という矛盾が成立するわけだ。
「他人も欲しがる妻」は価値が高い?
もうひとつ面白い心理がある。
自分のパートナーを別の男性が魅力的だと思っている。それを知ることで、逆に満足感を覚える男性もいる。
要するに、
「他の男も欲しがる女性が、自分の妻である」
という感覚だ。
寝取られというより、こちらはホットワイフ的な心理に近い。屈辱そのものよりも、パートナーの性的・異性的な価値を他人によって確認することが刺激になる。

居酒屋などで、自分の妻が別の男性と楽しそうに話している。それだけでも、こうした嗜好を持つ男性には通常とは違った感情が生まれることがある。
「あの男は妻を狙っているのではないか」という嫉妬と、「やはり自分の妻は男から見ても魅力がある」という妙な満足感が同時に存在する。
嫉妬と自慢が共存している、と考えると分かりやすい。
わざと「負ける」ことが刺激になる男性もいる
一方で、もっと直接的に屈辱感そのものを性的刺激として楽しむタイプもいる。
別の男性と比較される。自分より相手の男が選ばれる。自分では止められない状況を想像する。
普通ならプライドを傷つける場面だ。
ところが性的ファンタジーでは、その「負けた感じ」が強い刺激になることがある。
仕事では部下に指示を出し、家庭でも何かを決め、普段は自分がコントロールする側にいる男性が、性的な妄想の中だけでは完全に受け身になることもある。
日常生活の人格と、性的ファンタジーの役割は一致するとは限らない。

ところが、実は夫が「演出家」の場合もある
寝取られ系ファンタジーは、一見すると夫が完全に受け身に見える。
しかし実際には逆の場合もある。
誰と会うのか。
どこまで許すのか。
何を聞きたいのか。
どのような状況を想像したいのか。
こうした条件を男性側が決めているのであれば、本人は「奪われる側」でありながら、同時に状況全体を設計している側でもある。
つまり、屈辱と支配欲が同時に存在する。
ここがこの性的ファンタジーの妙なところだ。
妄想では興奮する。でも現実なら絶対に嫌
そして、このテーマで最も重要なのがここだろう。
寝取られ系の妄想を好むからといって、その男性が本当に妻や彼女を他人に奪われたいとは限らない。
むしろ、
「想像するのは好きだが、本当に起きたら耐えられない」
という男性もいる。
これは矛盾ではない。
性的ファンタジーとは、現実に実行したい計画書ではないからだ。
頭の中なら、自分に都合のいいところで始め、自分に都合のいいところで終わらせられる。嫌になれば、その瞬間に妄想を止めることもできる。
現実の浮気や不倫には、そのスイッチがない。

だからこそ、現実では絶対に起きてほしくない状況が、妄想の中では強烈な刺激になり得る。
妻が隣で普通に眠っている。その現実が安全だからこそ、頭の中だけでは危険な想像を膨らませられるとも考えられる。
寝取られ・カッコルド系作品が成立する理由
成人向け作品で寝取られ系がひとつの大きなジャンルとして成立しているのも、単純に性的な場面だけが理由ではないのだろう。
そこには、嫉妬、裏切りへの恐怖、比較、屈辱、独占欲、タブー、そして「自分のパートナーが他人から求められる」という奇妙な満足感がある。
つまり、肉体的な刺激だけではなく、かなり感情を揺さぶるジャンルなのである。
寝取られ作品を嫌う人が猛烈に嫌う一方で、好きな人は強くハマるのも、この感情の振れ幅の大きさが関係しているのかもしれない。
観測結果
寝取られ系の性的ファンタジーは、単純な「妻を他人に取られたい願望」では説明しにくい。
そこには、嫉妬、緊張、タブー、パートナーへの誇り、観察欲、屈辱感、独占欲、支配欲など、互いに矛盾する感情が混ざっている。
そして興味深いのは、「取られたくない」という気持ちが強いからこそ、その逆の状況が強烈な性的ファンタジーになる場合があることだ。
人間は、現実に欲しいものだけを妄想するわけではない。
現実では絶対に起きてほしくない。だからこそ、頭の中だけなら刺激になる。
寝取られ系ファンタジーは、人間の性欲が必ずしも単純な快楽だけで動いていないことを、かなり分かりやすく見せてくれるジャンルなのかもしれない。
余談
寝取られ好きの男は「自分に自信があるから平気」と言ったりするが、現実に女が相手の男を選んで、そのまま乗り換えたら話は別だろう。妄想なら主導権は自分にある。でも本当に捨てられたら、たぶん笑ってはいられない。